衣装コストは現在の20倍… コスプレイヤー歴35年のみちるが明かす「コスプレ黎明期」とは

ウィッグはアデランスで5万円、カラコンは1枚1万円、そして衣装は手作り…。そんな時代がコスプレ界にはあった。そんなコスプレ黎明期を歴35年のレジェンドレイヤー・みちるさんが語ってくれた。

みちる

約200万人のTwitterフォロワーがいる人気コスプレイヤーえなこや、海外でも人気の伊織もえなど、近年コスプレイヤーの活躍が目覚ましい。しかし1980~90年代のコスプレ黎明期、まだ情報源がインターネットより紙媒体だった時代に絶大な人気を博したコスプレイヤーがいた。

美女双子コスプレイヤーとして取り沙汰された「ルーク&みちる」だ。姉のルークさんは2019年、残念なことに病気で亡くなったが、妹のみちるさんはいまも現役コスプレイヤーとしてオタク活動に邁進している。そんなみちるさんに、過去のコスプレ界、今のコスプレ界について聞いた。


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■ルークさんとの思い出

みちる

──みちるさんがコスプレデビューされたのはいつ頃でしょうか?

高校生1年生か2年生の時、コミックマーケット(以下コミケ)が最初ですね。まだコミケが東京・晴海で行われている時代で、声優好きの仲間たちと合わせでコスプレしたのがコスデビューとなりました。やったキャラは『うる星やつら』のおユキでした。

衣装は着物だったので、市販品をアレンジ。アクセサリーは手作りで、当時ウィッグも簡単には買えなかったので地毛でやりましたね。メイク術も知らないのですっぴんでやりました(笑)。

──ノーウィッグ、すっぴんはいまのコスプレ界だとありえないケースですね。

35年前の80年代はそれがスタンダードでした。アマチュアカメラマン(以下カメラマン)さんも今ほど多くない時代でしたので、コスプレイヤーさん以外の交流はほとんどなかったかな。

コスプレイベント自体が少なかったので、夏コミ(お盆に開催されるコミケ)で撮ってくれたカメラマンさんが半年後の冬コミ(年末開催されるコミケ)でも来てくれて、「じつは夏コミで撮らせて頂きました」「あ、そうでしたか!」くらいのやりとりです。半年に一回の出会いがあるかないかのレベルでしたね。

反面、同人誌即売会は小規模なものが結構あって、郊外の公民館みたいな所で行われていたり。そこでコスプレし、ファン同士で好きな作品やキャラについてトークで盛り上がったり…。同人誌も描いていたんです。

みちる

──双子の姉・ルークさんとも一緒に?

はい。一緒に声優・神谷明さんの追っかけをしていたので(笑)。『うる星やつら』のコスプレも一緒にやっていました。双子だったのでよく覚えられていましたね。姉がもし今も元気だったら、『Re:ゼロから始める異世界生活』の双子キャラ・ラムとレムとか合わせたいなぁ…なんて思ったりします。

その頃、『美少女戦士セーラームーン』の連載が人気で、姉とセーラーウラヌス、セーラーネプチューンの合わせをしたのも良い思い出です。私のコスネーム「みちる」も、ネプチューンの本名・海王みちるからとったんですよ。ウラヌスがめちゃくちゃ好きだったので、ウラヌスとずっと一緒にいたいという気持ちで(笑)。

──そうだったんですね…! でもお姉さんのルークという名称はセラムンに出て来ない気が…。

じつは姉妹でヘビメタバンド「聖飢魔II」の追っかけを長年やってまして、姉は、ギタリストのSgt.ルーク篁III世(サージェント ルーク たかむら さんせい)さんから拝借を…。

みちる

──なるほど、好きなキャラや人物をコスネームに付ける時代だったんですね。デーモンというコスネームもあり得たわけか…。お姉さんとコスする際、キャラの取り合いで喧嘩になったりしませんでしたか?

それがないんですよ。私たち双子なんですけど、二卵性なので似てない。性格もやっぱりちょっと違います。趣味をめぐって喧嘩になったことは一回も無いですね。

衣装準備もよく力をあわせてやってました。まだAmazonとかコスプレショップがない時代ですから、ウィッグを準備するにも「アデランス」などガチのかつら専門店で買うしかなかった。いまや2,000~3,000円で購入できるウィッグですが、当時は1つ3万~5万円はしたかな。なので周りの仲間もほとんどが地毛でしたよ。

「聖飢魔II」のコスもしていたのですが、その時はアデランスで作りました。ドラムのライデン湯沢さんを推しているので、アデランスで作ってミサ(聖飢魔IIのコンサート)にコスプレして。メイクに3時間ほどかかるので、家からその格好で行ってましたね。今ではだいぶ危険な行為です(笑)。


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■ブレイクのきっかけ

みちる

──たしか当時はカラコン1枚で数万円。海外旅行の際、コスプレ仲間のためにカラコンを買って帰るなんていうエピソードも聞いたことがあります。伺っていると、コスプレ黎明期は衣装準備に今の数十倍ものコストと手間がかかっていたことがわかりました。

姉とコスプレしている時は、本当に毎回楽しかったです。好きな作品やキャラについて話し合って、衣装を準備して、一緒にそのファッションになって。普段の自分とは違う人間になって2人で思いっきり楽しんでいましたね。

SNSもないので外部との交流は少なかったですが、現場で会った人と仲良くなって、みんなで写真を撮るという楽しさがありました。そのキャラを好きな人同士巡り合わせるのが「コスプレ」だった気がします。

みちる

──「ルーク&みちる」の名が広まったきっかけは何だったのでしょうか。

当時人気だった格ゲー『バーチャファイター』のコスを2人でやった時ですかね。

若い双子のコスプレイヤーがいると話題になって、雑誌に掲載されました。それ以降、他の雑誌やテレビにも出演することになり…。まだその頃は、コスプレ文化が色眼鏡で見られていた時代で、出るんだったら完璧なコスを見せたいと2人で頑張ってましたね。

みちる

──お2人の写真集が出版社から発刊され、雑誌のコスプレ系記事には必ずお2人が出演されていましたね。TVで何度もお姿を拝見していました。

ありがとうございます。当時はまだTwitterもブログないですし、自身のホームページを自作していた頃。

お友達にホームページを作って頂き、次第にファンが増えてきた印象がありました。BBS(掲示板)に書き込んでくれて返信したり、懐かしい時代です(笑)。

それまでコスプレはまだオタク界隈だけのクローズドな趣味の世界だったので、プロカメラマンに撮影してもらえる機会があるんだと感激した記憶があります。バラエティ番組に姉妹で『キューティーハニー』姿で出演したり。

その後、嬉しいことに色々な案件のお話をいただけて、とある劇団のお芝居にも出演したんですよ。

──すごいですね。令和の人気コスプレイヤーもさすがに演技まではできないかと…。

一生懸命台本を読んで稽古をしましたね。宇宙人が地球を侵略するという大スケールなストーリーで、宇宙人が地球人に成り変わるというシーンがあったんです。

…私達双子じゃないですか。なので、姉と私で宇宙人と本人(地球人)役を担当したっていう(笑)。観客の方々が、最後に2人同時に出てきてびっくりしているのが今でも印象的です。

それまでお芝居はやったことがなかったのですが、それ以降何度かお声がけいただき、時代劇や特撮ものにも。本当に楽しい体験だったと思い返します。

ただちょっとしたハプニングも。NHKの番組に“コスプレツインズが登場”的なテーマで出演したことがありました。しかし、ちょうど放送日が祖母のお葬式の日だったんです。夜、みんなでテレビ見ながら親戚から「あ、2人が出てる!」って声が上がってしまい、「恥ずかしくて見たくない…!」と2人で笑ったこともありました。


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■コスプレイヤーのあり方は?

みちる

──人気レイヤーのえなこさんは2022年の年収が1億円だったと先日明かされました。ネットが当たり前になった今、コスプレイヤーの影響力はかなりのものを持っていると感じます。当時はギャラなど、どんな扱いだったのでしょうか?

まだ一般の人にとっては、コスプレといえば制服、ナース、バニーガールっていう認識の時代でした。バラエティで取り上げられても必ず深夜番組。出演する際は、コスプレ文化を理解せず、レイヤーを色物として取り上げるような企画は断り、ちゃんと衣装を見せて、楽しさを伝えられる番組だけに絞っていましたね。

出れても、全然ギャラとかなかったですし、中にはギャラ0円で記念品のテレホンカードだけという案件も(笑)。でも私達は芸能人ではないし、それが当たり前と思っていたんです。東京ゲームショウなどのコンパニオンなどもやりましたが、サブカル、ホビー業界のほうがしっかりギャラを支払ってくれていたと思います。

──いまやその流れも変わりました。コスプレイヤーが世間に出る先陣をきったのがお2人だったと感じます。

そうだったら嬉しいですね。姉が亡くなって3年経ちましたが、よく思い出しますよ。当時は亡くなったことが信じられませんでしたが、いまもいなくなった実感がなくて、夢にも頻繁に出てきてくれます。

Twitterで亡くなった報告をしましたが、それが私に残された義務かなと思っていました。でもそのツイートした後、20代の頃に知り合ったコスプレイヤーの子たちとかが久しぶりに連絡をくれて。報告して本当に良かったなと。


みちる

──いまのコスプレ界を見て率直にどうお感じになりますか?

一般の方たちの見る目、コスプレ界の認知度が昔と全く変わったと思います。180度変わったと言っても過言ではないですね。まさかこんなにオープンになり、コスプレを職業にする人が活躍する時代がくるとは、やり始めた頃想像もできませんでした。

そして芸能人でも普通にコスプレを楽しめる時代になり、コスプレという言葉を普通に使えるようになったのがすごくびっくりしました。昔だとありえなかったので。先日、とある学校の部活に「コスプレ部」というのがあると知り、時代は変わったもんだなあとひしひしと感じます。

衣装も気軽に買える時代に。その昔は自作していないと叩かれてしまう風潮すらあったので、年に衣装が増えても3~4着程度。今では自作するにも生地の種類が豊富で、パーツも揃いやすい。愛情を持って一度自分で作ってみる経験があってもいいですね。

──以前は「コスプレイヤー30歳引退説」もありましたが、今では違う気がします。コスプレはいつまで楽しむものと考えますか?

以前からそういう考えがコスプレ界にはあると思います。確かに私の年齢でやってる人いないですもん(笑)。その前に結婚や転勤など私生活に変化があって、辞めちゃう方も多くいらっしゃると思います。

でも、私は「飽きるまでやる!」という信念でコス活動を続けたいと思います。まだまだ飽きることはなさそうで、家族や知人など他の人にやいやい言われて辞めることではないのです。

一方で、小学生だからコスプレしちゃダメとか、そういうこともない。好きなキャラがいたら、好きな時にやるべきじゃないかと。それがコスプレの楽しみなのだと思います。

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(取材・文/Sirabee 編集部・キモカメコ 佐藤

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