チキンラーメンの価格見て実感する「いったいいくらなのかわからないシンドローム」

【鈴木貴博『得する経済学』】スーパーで買い物する時「これはいま買い」か「買わぬべき」か判断に悩むこと、最近ありませんか？

2022/12/24 18:00

ウェブ決済や電子マネー、ポイント還元にクーポンアプリ。買い物においてだんだん複雑になってくる世の中、物価まで急変動しいったいどうなっているのかわからなくなりますよね。今回はそんな「いったいいくらなのかわからないシンドローム」という話です。

「たぶんこれがめっちゃお得で、とにかく今買わなきゃ！」と脳の中で私のゴーストがそう叫びます。

…いや大した買い物の話ではなくてチキンラーメンの話です。東京という乾いた都会で暮らすハードボイルドな日々の中、あの心のスキマを埋めるハートフルな食べ物。自分の隠れ家にはかならずこっそり置いてあるあのチキンラーメンが、目の前にあってたぶん安い。

そもそも皆さん、チキンラーメンって一個いくらだと思っています？　私はつい先日までは一食分が60円だと思っていました。

かつての特売価格が5個入りのパッケージで298円だったからそんなものという感覚です。消費税が5％の頃はそれも誤差範囲内という意識で、「探せばどこかでチキンラーメンはそんな価格で売っているさ」と、ぼーっと思いながら暮らしていたのです。懐かしきデフレ日本の時代です。

ところが2022年、北アメリカ大陸の干ばつとロシアのウクライナ侵攻でチキンラーメンのすべてが変わってしまいました。円安と小麦価格高騰、原油由来のパッケージの仕入れ価格の値上がり、工場の電気代や輸送に使うガソリン価格の高騰でチキンラーメンにもインフレの時代が始まったのです。

いつのまにか町で普通に見かけるチキンラーメン5袋入りの価格は477円に！

いや、ここからが今日の話の本題です。477円じゃないんです。その右下にすごく小さな文字で「税込515円」と書かれています。

そう。消費税が増税されてからは税込の価格を必ず表示しなければいけない法律ができたのですが、文字のフォントの大きさまでは法律で決まっていないせいで、最初に目につく数字は税抜価格。でも本当に買える価格は目に見えないほど小さな文字で書かれた税込価格の高いほうです。

ここで冒頭の「チキンラーメンって一個いくらなの？」という質問に戻ってみたいと思います。

「坊や、そんな小事を気にするようじゃ大人の男とは言えないな」

やせ我慢がハードボイルドのたしなみだと言っても、ちゃんと計算するといやいやたいした違いです。一個103円。結構な価格まで袋麺の値段が上がってきたことがわかります。

それで私はやせ我慢をして、「今日はチキンラーメンを買う日ではないな」と手ぶらでスーパーを後にするわけです。

さて、そんな翌日、ドラッグストアの店頭でチキンラーメンを見かけたのが冒頭のシーンです。目に入った文字は、「特売価格税抜き377円」です。いやこれめっちゃ安そう。前日の477円から377円引いたら100円だから直感的にも安さがわかりやすい。

ただ私が「これ、めっちゃ安い」と思ったのにはもうひとつ別の理由が。そう、そのドラッグストアではスマホアプリに毎週1枚、15％引クーポンが送られてくるのです。

「だったらめっちゃ安くなるだろう」まではすぐにわかるのですが、いったいいくらになるのかがまったくわからない。暗算が苦手なのです。

小学校の算数の問題文に直してみましょう。

「たろうくんは薬局で5個入りのチキンラーメンを買いました。税引き価格377円ですが、たろうくんは15％引きのクーポンを持っています。食料品にかかる消費税8％を払ったあとで結局たろうくんはチキンラーメンを一個いくらで買えたでしょう」。

うわぁこんな感じですか。これは店頭で一瞬で計算するのは無理ですね。

結局、その場で計算せずに買って帰りました。計算結果は？　いやいや計算などしなくてもスマホを見れば結果はわかります。ペイペイで346円払い、さらにポイントが6円ついたので一袋はジャーン、難しい計算などしなくても340円でした。つまりチキンラーメン一個68円とめちゃ安でしたね。

やっぱり私のゴーストのささやく言葉は正しかった。

Sirabeeでは、経済の素朴な疑問に対して明快な解説をする経済評論家にして戦略コンサルタントの鈴木貴博（すずきたかひろ）さんの連載コラム【得する経済学】を公開しています。街角で見かけるお得な商品が「なぜお得なのか？」を毎回経済理論で解説する連載です。

今週は「いったいいくらなのかわからないシンドローム」という話をお送りしました。