もらえる一万円より失う3000円… 誰もが体験する「矛盾に満ちた」行動経済学

【鈴木貴博『得する経済学』】論理的には合理的でない経済行動を人間はついついしてしまう。「行動経済学の罠」とでもいう思考を今回はご紹介します。

2023/03/05 05:45

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「えーと、ご利用は計画的に行こうね。まず駅前の薬局でトイレットペーパーを買うでしょ…」

とまあ、こんな感じで家族で買い物の計画を立てていました。先週末のわたしと家族の様子です。

この話、読むすすめると一見無意味なというか、あきれた週末の使い方に見えてくる人もいらっしゃると思います。わたしもそう思うのですが、実はこの無意味な行動から、行動経済学の実に重要な原理が発見できるのです。そんな貴重なことが判明するわたしの週末の話にお付き合いください。

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■期限が迫った商品券を使い切ろうと奮闘

以前の記事でも紹介しましたが、わたしの住んでいる東京都新宿区は、アフターコロナの商店街の振興策としてプレミアム商品券を発行しました。お得なので抽選で当たらないと買えないのですが、1万円で合計1万3,000円分の商品券がゲットできます。

実はわたしも当せんしました。ところがわたしの仕事が忙しかったこともあり、商品券を使い終わらないまま利用期限の2月28日が迫っていたのです。残った商品券は全部で3,000円分。これをどう使うかという話になって、冒頭の家族会議が始まったわけです。

そもそも1万円で購入した商品券をすでに1万円使ったわけなので、実はもうすでに元はとっています。だったらパーッと使ってしまってもいいですよね。

普通なら、「じゃあ今晩は家族で、新宿駅のねぎしに出かけて牛タンでも食べようか?」というやさしいパパの一面を見せてもよかったのですが、値上げラッシュの昨今ですから必要な買い物だけに使うことにしたのです。


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■じっくり計画をたて使い切ったが…

駅前の薬局ではお得なシングル倍巻のトイレットペーパーが438円ですから、必需品の天然水のペットボトル1本つければ500円券を一枚使うことができます。

同じくわが家の必需品の牛乳3本をドン・キホーテで買えば500円券がまた一枚。とまあこんな感じで計画をたてて、週末の2日間で残り3,000円は本当に生活に必要なものだけの購入で使いきることができました。

さて、ここがこの話の一番重要なところなのですが、なぜわたしがここまで真剣に3,000円の商品券を使い切ったのでしょうか?

実はつい数日前、忙しいからという理由で取材を一件お断りしました。経済評論家のわたしは30分ぐらい電話取材を受けると1万円の謝礼がいただけるのです。それをちょっと忙しいからという理由で断ったわたしが、週末に時間をかけて3,000円を使う計画をたて、4箇所のお店に買い物に出かけたのです。


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■だったらなぜ「1万円をゲットしない?」

この行動、矛盾していますよね。30分の取材を受けて1万円もらったうえで3,000円を捨てて週末のんびりしたとしても経済行動的にはその方が儲かっていますし、人生もより充実するはずですから。

さて、このようにもらえる1万円を断ったひとが、失う3,000円を必死に回避しようとする理由が行動経済学の原理にちゃんと書いてあります。

そう、「ひとは得することよりも、損することのほうがダメージがはるかに大きいと考えて行動する」という理論があるのです。

つまり行動としてはあきらかに非論理的な「もらえる1万円よりも失う3,000円」というわたしの行動は、行動経済学的にみると実は「みんなやっている」あるあるな行動だったのです。行動経済学って面白いですよね。


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■著者プロフィール

鈴木貴博

Sirabeeでは、戦略コンサルタントの鈴木貴博(すずきたかひろ)さんの連載コラム【得する経済学】を公開しています。街角で見かけるお得な商品が「なぜお得なのか?」を毎回経済理論で解説する連載です。

今週は「矛盾に満ちた経済行動」についての解説でした。

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(文/鈴木貴博

鈴木貴博著『日本経済復活の書 2040年、世界一になる未来を予言する』【Amazon】

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