消えた「忘年会」「新年会」… 背景には宴会のハッピーな進化があった

【常見陽平『過去から目線』】会社における「忘年会・新年会」開催が減っている。そこには宴会そのものの進化が…。

2022/12/30 06:30

宴会

忘年会、新年会シーズンがやってきた。新型コロナウイルスの感染拡大は今も続いており、第8波が日本列島を襲っている。もっとも、緊急事態宣言、まん延防止策などを始め、行動制限は行われない模様だ。まだまだマスクをしている人が多数派ではあるものの、新型コロナウイルスに対する警戒もだいぶゆるくなっている。スポーツ観戦やライブでの声出しも解禁になりつつある。

【関連リンク】常見陽平氏の連載『過去から目線』バックナンバー



 

■宴会ばなれが止まらない

そんな状況なので、忘年会、新年会は盛り上がりを見せているのではないか? 残念ながらそうでもないらしい。

たとえばsirabeeが11月29日~12月1日、全国の10~60代の男女903人に実施したインターネット調査によると、忘年会を開催する予定がある人は2割程度だった。その内訳を見ると「友人だけで忘年会」の回答が大半を占めており、職場関係が絡んだ忘年会に参加すると回答したユーザーは全体のわずか8.4%しかいない。

企業を対象とした調査もみてみよう。東京商工リサーチが10月3日から12日にかけて全国の企業を対象に「忘年会・新年会」の実施について行ったアンケート調査によると、「開催しない」企業は61.4%だった。しかも、昨年10月の調査よりも9.0ポイント減少している。なお、「開催しない」率が最も高かったのは栃木県の75.6%で、最も低かった(実施率が高い)のは沖縄県の39.6%だった。もっとも、ここでの「忘年会・新年会」とは職場で開催するものである。個人的に仕事でつながりのある人との会合や、プライベートなものではない。

あくまで体感値ではあるが、第8波が直撃しているのにも関わらず、街には人が溢れているし飲食店の予約もとりにくくなった印象である。単に「忘年会・新年会」ばなれが進んでいるのではなく、「飲み会・宴会」のあり方が変わっているのではないか。職場のオフィシャルイベントから、プライベートなイベントに変わっているのではないか。働く人の「飲み会」の変化を考えてみよう。


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■景気、働き方との密接な関係

いかにも新型コロナウイルスショックで忘年会・新年会が激減したかのようにみえる。ただ、変化はコロナ前から何段階かで起こっていた。忘年会・新年会のあり方は、景気、働き方の変化、労働者の意識、飲酒のあり方、コンプライアンス意識などが絡み合い、変化し続けてきた。

忘年会・新年会は景気の影響を受ける。単に予算などの懐事情だけではない。景気が良いと忙しくなるのでガス抜きも必要となる。また、新卒、中途ともに採用が増えるので、一体感を醸成するために宴会が盛んになる。一言で「宴会ばなれ」とくくるのは雑であり、景気の変動の影響を受けるという前提を確認しておきたい。

一方で、中長期の変化もある。コロナ前の大きな動きといえば、働き方改革である。長時間労働の是正などが叫ばれた。ただ、一人で飲む「ちょい呑み」「せんべろ」などはブームになったものの、逆に組織での飲み会の広がりには必ずしもつながらない。「飲み会」というものは、育児・介護などの事情を抱えている人には参加が困難なのである。働き方改革と逆行したアクションになったとも言える。


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■コンプラ的には…リスクてんこ盛り

コンプライアンス重視の動きにも注目したい。「飲み会」というものは、コンプライアンスから考えると、リスクの高い要素がてんこ盛りなのである。アルハラ、セクハラ、パワハラなどあらゆるハラスメントの温床となっている。

私が大学生だった約30年前、新入社員だった約25年前は「とりビー(とりあえずビール)」文化があり、皆、有無を言わさずとりあえず飲んでいた。飲まされていた。しかし、言うまでもなくアルコールを飲めない人、苦手な人もいる。急性アルコール中毒のリスクだってある。

酔った勢いでのセクハラ、パワハラのリスクももちろんある。詳細は書かないが、直接被害を受けなくても、その場にいることで不愉快な気分になることもある。下ネタと恋バナのスレスレの話を聞かされる、下品な宴会芸を見せられるなどの問題も起こりうる。

なお、2010年代に入ってからは、宴会のネット炎上というリスクも浮上してきた。宴会での悪ふざけをSNS投稿し、外部の人から批判される例などだ。当事者たちが投稿しなくても、同じ会場で飲み食いしていた人が不快に思い、社員証、紙袋のロゴなどから社名が特定され問題となることもある。


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■ルールはより厳しく

90年代までは一気飲みのコールなどは存在したが、これらは飲食店においては接客マニュアルにおいても禁止行為と明記されており、コールが始まった瞬間、店員がやってきてストップする(はずである)。「森のくまさんコール(替え歌で、くまさんが飲みたい設定で煽る)」「橋本聖子コール(聖子、聖子、橋本聖子というコールでスピードスケート選手風に両手にジョッキを持たされ一気飲みをする)」などを若い頃、やらされたが今思うと危険極まりない荒行だった。

会社員になる前の大学生活においても、アルコールのルールは厳しくなっている。学園祭において、自由に飲酒ができる大学が減っている。早稲田、一橋のように10年以上前から完全に禁止になっている例や、アルコールパスポート制、チケット制など、制限がきくようになっている。大学によっては「飲酒する人とそうではない人のテーブルをわけること」「大酒飲み自慢をしないこと」などのルールを明記している場合もある。「昔はよかった」という話をするわけではないが、飲酒に関するルールは厳しくなっているのは明確だ。


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■快適に行う「宴会」に進化

そもそも、働く人も酒を飲むこと、さらには職場の人と宴会をすることを必ずしも望んでいるわけではない。もともとその流れがあった中、新型コロナウイルスが宴会ばなれを決定的なものにしたといえるだろう。

もっとも宴会や飲み会はなくなったわけではない。みんなが必ず参加するものから、有志が自主的に快適に行うものになったと言えるのではないか。その点で、日本の宴会は今後、ハッピーな方向に向かうとも言えるだろう。「宴会ばなれ」と言いつつ、実は飲酒文化は進化しているのだ。


■執筆者プロフィール

常見陽平

Sirabeeでは、労働社会学者、働き方評論家である千葉商科大学国際教養学部准教授・常見陽平(つねみようへい)さんの連載コラム【過去から目線】を公開しています。

現代社会で今まさに話題になっているテーマを、過去と比較検討しながら分析する連載です。今回は、この時期の風物詩である「忘年会・新年会」をテーマにお送りしました。

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(文/常見陽平

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